転校して一週間。

 同じ手を使われたのは二度目。

 引っかかってるわけじゃない。

 ただ、そう呼ばれるのがイヤなだけだ。

 ふざけた名前つけやがってあのクソジジイ。

 親父がしっかりしねぇから自分の息子にこんな変な名前つけられるんだよ。

 自分でできるっつーのに俺が歩ってたら鷹槻がタイミングを計ってドアを開ける。

 外に出たら車が門の前に止まってるし。

 ウゼェ。

 これじゃ実家にいるときと、マジ何も変わんねー。


 「寿様、本日のモーニングは」

 「いらねぇ」

 「いけません。朝だけはしっかりと召し上がっていただきます」

 「いい加減飽きたんだけど」


 余裕の笑みを浮かべる鷹槻の目、笑ってねぇ。


 「毎日違うメニューをご用意致しておりますが」

 「朝メシ食うのにだよ!! つーか、もっと自由にさせろ」

 「寿様のご面倒を見るようにと、会長から直々に言い遣っておりますので」


 会長会長って、ただの隠居ジジイじゃねぇかよ。


 「お前、それで満足?」

 「えぇ。立派なお部屋もいただいて、お給料もいいんですよ?
 特にこちらで寿様と一緒に暮らさせていただくようになってからは」

 「一年間、俺の貯金で今よりもっと高ぇ金払ってやるから、どっか行ってろ」

 「わたくしは鷹槻の姓を名乗ったときから一生寿様にお仕え」

 「聞き飽きた」

 「わたくしは心を込め、何度でも申し上げさせていただきますよ?」


 テーブルの上のスープをすくい、鷹槻は俺の口元へと運ぶ。


 「本場イタリアのシェフが一晩掛けて煮込み、
 熟成致しましたミラノ風トマトスープでございます」


 俺の顔の前で緑のバジルが浮く赤く透明な液体が、

 半球のスプーンの中で白い湯気をあげていた。

 こんなに距離が近ければ鼻をつくはずの酸性の芳香が、

 野菜の醸す柔らかな甘みと絡まって穏やかに漂ってくる。


 「この間会長がイタリアにいらした折にこのスープを
 お気に召され、是非とも寿楽様」

 「鷹槻テメ」


 ガフッ……

 スプーンが口ん中に突っ込まれた。