ダメ!




 もうダメェッ!!





 手は手すりをつかんだまま、だけど下半身はガンガンガンと階段を滑る。

 痛いっていうより身体がぶち当たる衝撃のが強くて、





 呼吸がその度に止まった。


 「大丈夫か?」

 「うっぅ……」


 スルッと、手の力が抜ける。


 「おいっ!」


 再落下を始めようとした私の身体を、誰かが支えて止めてくれた。


 「どっか痛いとこあるか?」


 焦ったような寿の声。

 痛いよ……全身……

 でも右の足首が、一番ジンジンしてる。


 「右足……」

 「他は?」


 あとはもうどこもかしこも同じくらい痛くて、だから私はゆっくり首を振った。


 「すぐ病院連れてってやるからな」


 寿は私を背負い上げ、階段を少し下ってどこかのフロアに行くと、

 エレベーターで一階まで運んでくれた。


 「タクシー呼べ! 早く!!」


 フロントで受付の人を怒鳴りつけ、呼んで貰ったタクシーで病院へ。

 診断は、打撲と捻挫。

 あんまりひどくなかったから、一週間くらいで良くなると言われた。

 診察室を出て寿がいるはずのベンチを見たら、鷹槻さんがいた。


 「申し訳ありません。お怪我の具合はいかがですか?」


 右足を引きずる私の手をさり気なく取って、優しくエスコートしてくれる。


 「大したことないです。それより寿はどこに……」


 ちょっと恥ずかしくなったから話題をそらした。


 「わたくしどもが、こちらに到着したときには、既に姿がございませんでした」