ホテルのフロントで寿に会いに来たというと、

 ロビーで待つように言われた。


 だけどしばらくして、ホテルマンがやって来て、

 今日は会えないと告げられた。




 会えない―――――




 それはつまり、最上階のあの部屋に、彩並寿がいるってこと。


 「ウチと、逢いたくないのカナ……」


 奈々はうつむいて悲しそうにつぶやいた。


 「風邪でもひいてるんじゃない? 以外と弱そうだし」


 こんなところにいても気が滅入るだけだから、私は奈々と早々にホテルから出る。

 そしたら、電話がかかってきた。

 知らない番号から。


 「もしもし」

 「岡崎様のお電話でよろしいでしょうか?」


 この丁寧な物言い、凛として細い声。


 「はい。そうですが」

 「急なお電話失礼いたしました。彩並の執事をしております、
 鷹槻心貢と申します。突然で恐縮なのですが、これからお一人で、
 こちらに来ていただくことは可能でしょうか?」


 ひっ一人で!?


 鷹槻さん私が奈々といること知ってて言ってるの?


 「ちょっとそれは……」

 「そうですか」

 「どうかしたんですか?」

 「大したことではありませんので、どうぞお気遣いなさらないでください。それでは失礼します」


 電話は切れた。

 来なくていいって言われたけど……来て欲しいってことは、私の力が必要ってことだ。


 「なっ奈々、先に……帰っててくれる? 学校に忘れ物してきちゃったんだ」

 「えぇ?」

 「ごめんねっ。また明日」


 深く訊かれないうちに私は踵を返して走り出す、履歴使って、電話をかけながら。