「素敵なスーツですね。どちらのブランドですか?」

 「これ唯がデザインしたのっ! カッコイイっしょ!」


 「そうでしたか。カーティス・フリージアのものかと
 思いましたよ。とても素敵なデザインですね」


 目を細めて笑って見せたが、それは親父の方に。

 自作だろうと思ったよ、神野唯夏はデザイナーになるためにパリへ行ったんだから。

 カーティス・フリージアはカーティス・カンパニー所有の

 オリジナル、アパレルブランドだ。

 昔からアパレル事業に興味のあった唯夏は、その会社の御曹司と

 知り合うと、勉強させて欲しいと言って、よく家に通っていた。


 「実はね、ジュンちゃんにもね、スーツつくって来たんだよ!!」


 唯夏が何かを俺に差し出そうとしたから、仕方なくそっちを見る。

 ぱっちりとした二重のまぶた、下がった目尻は猫のようで、右目の下の泣きぼくろは昔のまま。

 栗色の髪は耳下でゆるく巻かれ、なだらかな頬のラインを隠す。

 部屋の明かりをともして幼くほころぶ色の薄い唇は控え目に華やいでいた。






 知らねぇよ、こんな女。





 「ありがとうございます」


 俺は受け取った紙袋を膝の上に置いた。

 袋の口から見えるのは、白っぽい色の服。




 『ジュンちゃん白似合うね! 王子様みたい~ぃっ』



 記憶の片隅で、誰かが言った。


 知るかよ。




 「サイズ合ってるかなぁ……」

 「着替えて来なさい」


 ジジイが言うから、俺はこの最悪な空間の中から出ることができた。

 襖の向こう行くとそこには鷹槻が正座して控えていて、俺を見るなり立ち上がる。


 「どうされました?」

 「ちょっと来い」


 ジジイのメイドに適当な部屋を用意させて、俺は鷹槻に紙袋をわたす。


 「着替えろ」


 あんな女がつくったもんなんか、着たくもねぇ。