「分かったよ。行ってやる。
 でも今日は、時期社長としての顔を捨てて行くからな」


 俺の言葉を聞くと鷹槻は身体に巻きついた布団をとってくれた。



 ジジイは俺を何だと思ってんだ?



 カンパニーの後継者である前に、俺はあんたの孫だろう?

 抹消することができねぇから、心の奥底に埋めといた昔の記憶。

 それが今、ドクドクと脈動しながら棺をぶっ壊そうとしてる。




 ヤベェよマジで。


 俺、本気でどうなるか分かんねぇ。




 「は~ぁ……」



 スーゲェ気が重い。






 「寿様、終始敬語で丁寧にお話しください」


 鬼ヶ島に向かう車の中で、俺も鷹槻も無言だったが、

 車を下りる直前に、鷹槻が言った。

 俺と目を合わせようともせず、足下を見て。

 何でそんなどうでも良さそうなことを、暗い感じで言うんだろう

 と思ったが、それはすぐに明かされることになる。

 天守閣ではなく応接室に着くと、客はジジイとともに歓談していた。


 「アハハハ! や~だぁ、おじい様ってばぁ!」


 飾り気のない快活な喋り方、高い声。

 心の奥の棺にピキッとひびが入った。


 「遅くなりまして申し訳ありません」

 「ジュンちゃん久しぶりっ!! や~。ホント格好良くなったぁっ」


 席を立ち、俺の方へ歩いてこようとする女は視界の端に入ってたが、無視して歩く。


 「お久しぶりです神野様」


 まずは初老の男に挨拶をした。


 「元気そうだね寿楽くん」


 子どもの頃、短髪と相まって知的さを強調するシャープな目には

 恐怖感もあったのに、相当苦労したらしい。

 目尻のしわが深くなり、少し顔つきも柔和になった。

 挨拶していたら、俺の近くに来ようとしてた女が自分の席に戻ってきた。

 女はニコニコしてるが、俺の態度の変化に気づいたんだろう。