「んなことは分~ってんだよ。でも今回は行かねぇ」

 「そうですか」


 あっさり引き下がる……のかと思いきや。


 「かくなる上は、仕方ありませんね」


 鷹槻の声に反応して、部屋のドアからぞやぞやと黒いスーツ姿の男たちが入って来た。

 みんな同じ真っ黒なサングラスをかけている。

 多分ここの従業員だが、誰が誰だか分からない。

 冷や汗がタラ~ッと頬を伝うような感覚。

 ヤベェ、ゼッテェ逃げらんねぇ。

 だけど今日は嫌だ!

 誰が何つったって、俺は行かねぇっ!!


 「みなさん、お願い致します」


 鷹槻の一声に男どもがわっと俺を取り囲む。


 「おりゃ~~~~~~~~~っ!!」


 俺は掛け布団を持って、ぶるんぶるんと振り回した。

 これなら動けねぇだろ! 

 布団を振り回しながら出口を目指す。

 だが黒い中の一人に布団の裾を捕まれた。 

 グッと引っ張って急に力を抜いたところ、俺は捕獲された。

 そう、俺が。


 「放せこのヤロ~ッ! テメェら全員クビだ!!」


 暴れようとするも、大の男五人がかりくらいで押さえつけられ、

 俺の武器になってくれるはずだった掛け布団を身体に巻きつけられた。


 「参りますよ、寿様」


 左右非対称の笑みを浮かべたのは俺つきの執事のはずの、鷹槻心貢。




 心から貢ぐと書いて、心貢。

 俺にじゃなくて、ジジイにな!!



 車に押し込まれてもなお、巻きつけられた布団を取って貰えない俺。


 「なぁ鷹槻、俺の人生今日で決まっちまうかもしんねぇんだぞ?
 俺が不幸になったとき、責任取れんのか?」


 行きたくない、絶対に。


 「不幸になどなりません」


 大事な大事な会長サマをけなされて、鷹槻はギロッと俺を睨みつけた。


 「あの狸ジジイのお眼鏡にかなったんだから、今日会う女は
 会社の未来には貢献するだろうよ。けどな鷹槻……」


 俺はそこで、一度大きく息を吐く。

 ここから先は、何も飾らない、俺の本心だ。