「寿様、今回は、本当に大切なご用件なので、どうかお願いいたします」


 気を取り直したらしい鷹槻が、丁寧に言葉をつづる。

 いつもなら力づくで出させようとするのに、今日の鷹槻は不自然なくらい低姿勢だ。


 「どんな内容だ?」

 「それは直接伺ってください」


 鷹槻が突き出した電話を、俺は顔をしかめたが受け取った。


 「お待たせして申し訳ありません」

 「寿楽~ぅ! ホントに待たせおってぇ。日本にいるというのに、
 GWに遊びにも来んとは! なんとジジ不幸な」


 とりつくろって出てやると、ジジイはスゲェテンション高かった。


 「新しい環境についていけなくて……五月病ですよ」

 「そうかそうか。じゃあ、所帯でも持って、落ち着きながら勉学に励むといい」

 「しょっ所帯……ですか?」


 いつもジジイの話しは突然だ。


 「今日、寿楽もワシに会いに来ることだし」


 待て~いっ!! 誰が今日行くだと?


 「申し訳ありません、おじい様。今日は体調が優れなくて」

 「五月病だろう? ワシの孫なら大丈夫だ。
 先方もせっかく遠方から見えるんだ。
 お前がいなくては失礼になる」


 ならそういうことは早く言えよクソジジイ!!


 「今度は……ドコの誰ですか?」

 「花の都のパリジェンヌ」


 パ……リ……?


 「エリシア、ですか?」

 「いいや?」


 ゴクリと俺はツバを飲み込んだ。


 「名前は」

 「会えば分かる」


 ウキウキして、テンションが高いジジイの声。

 いつになく、スゲェ嫌な予感がする。


 「行けません」

 「ダメだ! 来なさい。これは会長命令だ」


 ジジイは有無を言わせない強気の物言いで言うと、ブツッと切りやがった。


 「勝~手なことばっかしやがって! 俺行かねぇっ!」


 ベッドに電話を叩きつけたら、それは弾んで床に落っこちた。


 「寿様のお気持ちはお察しいたしますが、これは次期社長としての業務の一環ですから」