空手部の顧問をしていた二年生のときの、学年主任だった。


 「何しに来た?」

 「近くを通ったから、寄ってみただけです」

 「彼女を連れてぇ、いいご身分だな」


 先生はチラッと私を見た。


 「可愛いじゃん」


 カッカワイイ……?


 「アハハハ」


 星哉が照れながら乾いた声で笑う。


 「君はどこの中学校を出てるんだ?」


 せっ先生っ!!


 「先生、ココですよ。岡崎美希です。覚えてませんか?」

 「おっ岡崎ぃ……!?」


 私は恥ずかしくてうつむいた。


 「いや……俺は……ん……? 岡崎……岡崎美希……」


 知らないとか、言えないよね先生。

 大勢の生徒を送り出してて、忘れちゃうことなんか絶対あるはずだけど、

 生徒にとって 関わった先生は特別な存在だから。


 「先生、あとで卒アルでも見てください。また来ます」

 「おう。気をつけてな」

 「はい。岡崎、帰ろう」

 「失礼しました」


 私は先生に一礼して学校を出た。

 まだ、ドキドキしている。

 先生に気づかれなかった。



 当然。



 歯を矯正してたのは中学生のときだけど、私は卒業してすぐ目を整形した。

 矯正だけじゃあんまり変化がないけど、目と合わさったら、きっと別人。

 私、変わったんだよね。


 「ビックリしたな~。先生に会うとは思わなかった」


 星哉は恩師に会えて、嬉しそうだった。


 「変わってなかったね」

 「そうか? 白髪増えて、ちょっと老けたよ」

 「ウソ」

 「ほんと。中学んときは毎日顔見てたから気づかなかったけど、二年はやっぱり大きいよ」


 星哉は、よく見てるんだね。

 隣りを歩く星哉の横顔は、夜の優しい明かりに照らされていた。