ゆっくり上る階段は暗くて、注意しないと転びそう。

 夜闇に飲まれた校舎内、星哉の手の暖かさだけが、頼りだった。

 コワイ……

 月明りが窓から差し込んで、青白く床を照らしている。

 光のないところは、闇の色。

 何かが潜んでるかもしれない。

 やめない?

 帰りもココ、通るんだよ?

 そんな言葉、ヘタレな私は何回飲み込んだんだろう。

 なんとか三階までたどり着いた。

 あと二回分上がれば屋上に着く。


 「そっちじゃない」

 「え!?」


 階段を背にし、三階フロアに立つ星哉はさらに上を目指そうとした私の手を引いた。

 三階には二年生の教室しかないよ。

 こんなところに、見たいもの―――――!?

 私の、記憶の中の重い扉が不気味に軋みはじめる。

 今、私たちが上ってきたのは私が毎朝必死に駆け上がっていた、階段。

 顔を、私の存在を見られたくなくて。

 三階のフロア、私が大嫌いな思い出が、沢山つまった場所。

 ねぇ星哉、こんな場所に、見たいものがあるの?


 「行こう」


 星哉の静かな声がして、私の手を引っ張った。

 抵抗をせず、私はついて行く。

 ヤダなんて言えないじゃん。

 一階で私が勘違いしたのが悪いんだから。

 断ったら、軽くイヤガラセ。

 星哉、ドコへ行くの?

 何が見たいの?

 廊下の星明かりが私の横顔を照らしてるよ、星哉。

 不細工すぎて、本人を前にブスって言うことを躊躇いさえさせない横顔は、あなたの瞳に映ってる?

 エグくて辛らつな言葉ばかりを遣った話を私に聞かせるつもり?

 あの頃の自分を思い出せって。

 恋愛なんかに縁遠く、道化師みたいだった本来の私を思い出せって言いながら、別れ話をするつもり?

 いいよ、星哉を笑顔で開放してあげる。

 だから明日からは付き合う前みたいに接してね。

 考えてたら視界がにじんできちゃったよ。

 ピエロは涙なんか見せちゃいけないのに。


 「岡崎、もしかして体調悪い、とか?」