危機感は抱いてる。

 壁を背にしてるだけだもん、振り向かれたら……

 無断進入で訴えられるっ!

 しかも後ろから抱きつかれ、口を封じられてるこのポーズっていったい……

 私被害者って映る?

 星哉は……痴漢??

 逮捕で交流で裁判で……私は証言するの、


 「同意の上だったんですっ」



 同……意?

 私同意なんかしたぁっ!?

 ってバカ私っ。

 何パニクってんの!!


 「走るぞ」

 「えっ!?」

 「シッ」


 状況がよく飲み込めず、戸惑ってる私はグイッと引っ張られ、

 大またでパタパタと廊下を走る、暗闇の方へ―――

 え? まだ帰らないの?

 廊下の端を右手に曲がり、階段の前で立ち止まった。

 ヤバ、もう息荒いよ……

 膝に手を着く私とは対照的に、星哉は息さえ乱れてないみたい。

 流石空手家。


 「すごいスリルだったなぁ……」


 そんな星哉も心には答えてたみたいで、表情はない。

 一転を見つめて、放心してた。


 「星哉、もう帰らない?」

 「帰る?」


 星哉は私の身を気遣うみたいな顔をする。

 帰ろうって言わないのは、帰りたくないからだね。


 「見たいものがあるんだ」

 「昼間じゃダメなの?」


 夜の学校なんて怖いよ。


 「それじゃあ見られない」


 夜じゃなきゃ見られないもの?

 屋上で星、とか?

 見られたらロマンチック。

 夜の母校に忍び込んで、二人だけで天体観測なんて……

 奈々に話したら何て言うかな。

 星哉と二人だけの秘密にするっていうのもいいね。

 ここまできたら、半分成功したも同然。

 せっかくだし……


 「分かったよ。行こう」


 私の言葉に星哉は照れくさそうに笑って右手を差し出した。

 もう平気だね。

 “何か”がなくても、星哉の体温をじかに感じられるんだ。