プシューッと開く電車のドア。

 私たちの手は重なって、お互いの汗が合わさった。

 メールを打ちながら降りていく女子高生、音楽を聴きながら出て行くサラリーマン。

 人の流れが“出”から“入”に変わる頃、星哉は静かに私をエスコートし始めた。

 横に並ぶことができないから、星哉は少し右肩をひねる感じで先を歩く。

 キッチリ整えられたスポーツマンらしいショートヘア。

 耳の後ろから続くしっかりとした顎のライン。

 星哉の後ろ姿を一途にずっと見つめ続けてきたけど、こんな角度で見たことなんかない。

 緊張で言葉がなかなかでない私たちだけど、重なる手の熱が沈黙の気まずさを溶かしてくれた。

 星哉の息遣いに耳を澄ませながら、早すぎる心音を身体の中に隠すのは難しかったけど………

 少しくらい訊かれちゃってもいいかな、なんて―――


 「職員室明るいから、学校開いてる」


 急な星哉の声にドキッとして、繋いだ手をギュッと握ってしまった。


 「どっどうしたっ!?」

 「何でも……」

 「行きたく……ない?」

 「そんなことないよっ! 急に星哉が喋ったから、ビックリしただけ」


 うわ恥ずかしぃ……


 「あ、ごめん」


 星哉は頭を掻きながらテレたように笑ってる。


 「行こっ行こっ」


 黙っちゃったらもっと緊張すると思って、星哉の手をグイグイ引っ張った。




 三年間、通ってた道。

 中学生のとき、一人で歩いてたら、


 「女誘おうぜ」


 っていう男の子の声がして、そばに寄って来られた日。

 横から顔を覗きこまれて、


 「うわっ」


 て一言。


 「ブスじゃん」


 て吐き捨てたその人を


 「聞こえてる」


 って誰かがたしなめた。