「どうせ別れらなきゃなんないだって俺言っただろ?」

 「結婚前提にするとかしないとか、そんなの関係ないよ!
 お互いに、好きだからつき合うんでしょ?
 そのとき本気かどうかが問題で、先のことなんか」

 「分かってねぇな」

 「分かってないのは寿だよっ」

 「いいやお前だ。試してみるか?」

 「なっ何を?」


 寿は、不敵な表情でニヤリと笑んだ。


 「お前さぁ彼氏いるんだろ?」

 「えぇっ!?」

 「知ってんだよハナっから。事細かに情報提供してくれる奴らもいるし」


 情報提供って、多分いつも寿のそばにいる女の子たちだ。

 みんな寿の彼女の座を狙ってるだろうに、私に彼氏がいるのを寿に教えてない方がおかしいよ。


 「か~なり前から好きなんだってなぁ、そいつのこと」


 そんなことまでっ?


 「片想いの期間が長ければ長いほど、理想は現実から離れてく。
 例えイコールだったとしても想像通りの現実は、そのうちお前を飽きさすぞ」


 私から目をそらして浮かべたのは憂愁を感じさせるような、ちょっと切ない感じがする微笑。

 この人は過去に、何かあったのかもしれない。


 「飽きないもん」


 星哉は優しいし、私の理想の人だし、彼女になれて、もの凄く嬉しいし。


 「だったら証明しろ。それまで俺は新山を人質にする」

 「ひっ人質?」

 「悪くはしねぇよ。新山は俺にとって特別な存在だ」


 意味深な言葉を残し、寿は私を家の前で降ろす。

 もう終わった関係なのに、そのあとちゃんとドアのところまでエスコートしてくれた。


 「女装の趣味はねぇから、これはお前にくれてやる」


 別れ間際に差し出されたのは、私が返したシャネルの服が入った袋。


 「ありがとう」

 「明日、学校でな」