「だけど奈々は特別なんだって。特別だから……え~っとね。多分奈々のことすごく好」

 「ミッキー、いいよ。大丈夫」

 「でも奈々」

 「いいってばっ!!」


 奈々は目に涙をいっぱい溜めて私を睨むと走っていなくなった。

 奈々、ごめん…………

 私そんなつもりじゃ……


 「あ~あぁ、泣かせちまって、ど~すんの?」


 こっこの声、寿っ!?

 辺りを見回すと、物陰から寿が顔を出した。


 「元はと言えば、あんたのせいでしょっ」


 涼しい顔してるからイライラして怒鳴ってしまった。


 「八つ当たりはやめろよ。俺を口説き落としたら、
 新山との関係がどうなるか分かりそうなもんじゃん?」

 「あっあんたそれ分かってて」


 寿は両手を挙げて、ペロッと舌を出す。


 「けど、俺が惚れたのはマジなんだから、悪いのは美希だろ? 違う?」


 違わない……

 寿は何故かすごく妖しい目をして、私の方に近寄ってくる。


 「どーすんの? 俺が……何とかしてやろっか?」


 目の前に立って私を見下ろしながら、そっと私の髪に触れた。


 「なっ何とかって?」


 髪に触れる寿の手をつかんでどけようとしたら、

 するっと手を返されて、手を握られてしまう。


 「どこまででも慰めてやるよ? 美希の頼みだったら」

 「寿とはつき合わないって言ったじゃん」

 「それは美希の勝手だろう? お前がそういう態度で
 いてくれる限り、俺はこのまま変わんねぇよ」

 「何それ……意味分かんない」

 「意味なんか分かっても分かんなくても、結果は変わんねぇよ。
 どうする? 俺、新山を慰めた方がいい?」

 「やめて。何もしないで」

 「分かった。でも困ったら言えよ? すぐ助けてやるからな」


 言葉は優しいはずなのに、寿の口調は含みを持った感じで

 妖しくて、私の心臓をもてあそぶ。

 ゆっくりと湿った黒土の上を歩いてく寿の後ろ姿は

 太陽に照らされて、ぼんやりと光をまとって見える。




 ヤバイなぁ……



 私、本当に好きになっちゃったかもしれない。