しずしずと滑らかに歩いて入ってきたその人は、慣れた手つきでお茶を煎れてくれた。

 大した動作でもないのに、上品でいて繊細で、抹茶でも立ててくれそうな雰囲気が目を離させなかった。

 大和撫子っていうのは、多分こういう雰囲気を持っている。

 いかにも日本贔屓なジジイが好きそうな感じだ。


 「どうぞ」


 顔を上げたとき、その人と目が合った。

 くりっとした大きな目に小ぶりな鼻。

 色白できめが細かそうな肌、控えめな色の、薄い唇。


 「素敵なお方だとは伺っておりましたが、本当にハンサムなんですね」


 そんな言葉とともにくれた微笑に一瞬ドキリとする。

 垣間見える白い歯に、口端の先のえくぼ。

 上品な感じで、けっこう美人だ。


 「あんた会長のお気に入りだろ?」


 自分に自身なきゃ、この状況で普通俺には話しかけねぇよ。


 「だといいのですが……」

 「なぁなぁ、今度外で会わない?」

 「そうですね」

 「連絡先教えてよ」

 「それは、この次会ったときにしませんか?」


 自分で誘惑しといて最後コレかよ。

 流石ジジイのお気にだな。

 彼女は一杯のお茶にリップサービスを添えただけで、彼女はいなくなってしまった。

 俺の機嫌を取っておこうっていうジジイの作戦か?

 まんまと引っかかっちまったじゃねぇか!


 「寿様、支度が終わりました」

 「すぐ行く」


 煎れて貰ったお茶を一口も飲んでない。

 そのまんまにしてくのは勿体ないと思うのはマジで珍しいんだけど、

 火傷しそうになりながら飲み干して、座敷を出た。


 「見違えたな……」


 こんな短時間で岡崎の顔の売りが何かを見極めてメイクしてある。

 当然売りは唇で、肉感的に仕上がっていた。

 やっぱりプロの仕事は違う。


 「ありがとう」


 岡崎は恥ずかしそうに顔を紅くしながら視線を下げる。