そしてベンツのドアが閉まるとスーッと

 後部座席の黒い窓が下がって、中から寿の完璧な笑顔が現れる。


 「はう~ぅ……」


 奈々に視線を移したら、視点が定まってない。


 「奈々?」

 「かっこい~」


 ダメだこりゃ。

 静かに走り出す白いベンツを見送りながら、私はため息を吐く。

 何だか、波乱の予感だなぁ……


 「スゲー。やっぱマジで彩並グループの御曹司なんだな」


 そっその声は……!!


 「新山、完っ全に昇天してんな」


 奈々の前で手をヒラヒラさせてるのは、五十嵐星哉。



 うぎゃぁっ!!

 心の準備がぁっ!!



 「カッコイイよな~、彩並。岡崎もそう思わねぇ?」

「カッカッココッココ……」


 口が回んないよ!!
鶏の真似とか、ありえない。

 「何言ってんの?」


 最悪だぁ、星哉が笑い出しそうなのコラえてる……

 そして私の顔、きっと真っ赤。


 「俺、勝ち目なくなるカモ」

 「かっ勝ち目?」

 「体育館行くとき言ってたこと、マジ?」


 うわーっ。

 そんなっ! そんなそんな……

 どうしよう。


 「俺さ、結構、嬉しかったんだけど」


 嬉し……かった?


 「聞き違いじゃなければ、その……つき合って?」


 えっえっえ―――――――っ!!


 拳を口元に当てて、今朝合ったときみたいな格好で、星哉は私の前に立っている。


 「あの、その……」

 「もう、遅い?」

 「遅くないっ」

 「マジ? 良かった」


 フッと笑った星哉の顔。

 拳は口元から離れて、だけどすぐ両手が口の前で合わされた。


 「あ~っ、マジ緊張した。俺、こういうの初めて」


 耳まで真っ赤な星哉はなかなか顔を上げなくて。

 星哉は告白されるばっかりだったのかな。


「わっ私も」


 っていうか、私は星哉と違って相手がいたことさえないし。

 告白する勇気もなかったし。


 「ミッキーずるいぃ……」

 「なっ奈々っ」