一巻の終わり。

それでも弱々しく視線を落とすまいと、段田を凛と見据える。

そんな子供侍の後ろに回り、段田は自分と同じくらいに細い背を平手で叩いた。


「はい、終わった。早く行け」


 段田は偉そうに命じた。


「ぼうっとするんじゃないよ。
もう幻影は完成した」


 鼻を鳴らす段田に、菊之助は膨大な数の疑問符を、頭に浮かべて振り返った。


「えっ……?」

「私が施した幻影は魔王さえ欺くんだぞ。
せっかく大の男に化かしてやったんだから、しっかりしてくれよ」

「でも、だって旦那は」

「なんだ、いまさら怖気づいたのかい、男のくせに。
さあ、さっさと行きたまえ!」


 段田は言い放つや、力強く菊之助を押した。


「わっ」


 押し出されたせいで前のめりになりながらも、どうにか転倒は免れた。

目を白黒させて、菊之助は再び振り向いた。


(気づいていない、のか?)


 段田にしては抜けている。

だが、いずれにせよ助かった。

聡明な段田にしては不自然だが、あれは幸運だったのだ、と菊之助は深く考えるのをやめた。