─その時だった。







“……えっ”







ユリの駆けていく進行方向。






その先。





ユリが出ていったのとは反対側、前の黒板側の扉、その向こうの廊下。




“あれって…”





扉に隠れてわずかに、でもはっきりと、黒紫の靄(モヤ)がゆらぁっ…と不気味に揺れて見えた。






“「黒いモヤモヤ」とか「灰色の霧」とか”






雫の能天気な声が脳裏をよぎる。





それと同時に、冷ややかな空気がすうっと背中を撫でて、身体がぶるっと震えた。




間違いない。





そう思った矢先。





さらに信じられないことが起こった。






ユリが廊下を駆けて教室の扉の向こうに隠れる瞬間、





その不気味な靄(モヤ)が、





ユリの身体に音もなくゆらりと巻き付いた。






「ウソっ…!!」

「は?」

「唯っ?」





ガタンと椅子を倒して立ち上がったあたしは、脇目もふらず教室を飛び出した。