そうだ。その時会った男の子。
さすがに大きくなっているけれど、面影はちゃんと残っている。

 あの日、お母さんの検査が終わったと告げに来たお父さんが迎えに来て彼と別れた。
彼と話して、一年間別の病院に行くことを聞いていたから、こういったんだった。


『また来年ね! 七夕にお願いが叶ってるか見せ合いっこだよ!』



 しかし案の定、母が退院してから病院はめったに行かないし、七夕には彼のことをぼんやり思い出しはしたが、約束は実行されなかった。


「もしかして…あの時のことを、まだ…?」

 傘をずらして、彼の顔を覗き込む。
 また…あの悲しそうな顔…。


「どうしても、伝えたかったんだ。僕が戻ってきた時、君はもういなかったから…」

「それはっ…本当に、ごめんなさい」


 私が忘れて、会いに行かなかったから。しかし、そういうのとは違うんだ、とサク君は首を振る。


「どういうこと?」


 聞くとサク君は目を閉じて眉間に皺をギュッと寄せた。





「こちらの世界では君は、どこにもいなかったから」