そのあと陸は、遊美の作られてから、今にいたるまでの話を聞いた。
奇妙な話だった。
座木周一郎という芸術家によって、死んだ娘の生まれ変わりとして作られたこと。作られてからすぐに意思を持ち、付喪になったこと。周一郎と共に暮らしてきたこと。しかし、ある日、その周一郎が、絵の具の付喪に殺されてしまったこと。
「そうすると急に、熱くなった。なんだかよくわからないけど、胸の中が熱くなった。思わず暴れて、部屋を壊した。それでも、熱いの、おさまらなかった。そうしたら、あの割り箸の声が聞こえた。その声に、絵の具と同じ、なんだか嫌なもの、感じた」
どろりとした、黒くて焼けるほど熱い何か。
付喪の声に含まれた、殺意のことだ。
「その声を聞いた途端、壊したくなった。周一郎を殺したものと、同じような声を出した割り箸を、壊したくなった。そして、壊した。でも、おさまらない。熱いのが、おさまらない。周一郎のことが、頭からはなれない。熱くなる。熱くなる。暴れたくなる。ねえ、これは何なのだろう?どうしたら、この熱いの、おさまるのだろう?」
陸は、眉をよせた。
そして、慎重に言葉を選びながら、口を開いた。
「遊美ちゃん、それはね……」
その時だ。
「やかかかかかかかかかかかかかかかっ、やかっやかっやかっ、やかかかかっ、やかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかっ」
どす黒い声が、遠くから聞こえてきた。
付喪の声だ。