遊美の人形は、アパートの二階にあがると、声のする部屋の前に立った。
玄関のドアが、壊されてずれていた。
その隙間から、中をのぞいてみる。


六畳一間の部屋だ。
入り口近くのシンクには、割れた食器が転がっている。部屋の隅には布団が敷いてあって、本やCDがそこにちらばっていた。


その上に、ひとりの男が倒れていた。全身が小さな穴だらけになって、血を流して死んでいた。


シンクの側に、ひとりの少年が立っていた。
細い目をした、十七歳くらいの少年だ。呆然とした表情で、宙を見上げている。


その視線の先には、奇妙なものが浮かんでいた。


それは、たくさんの割り箸だった。


赤い血にまみれた、おそらく五十本近くの割り箸が、びっしりと部屋中に浮かんでいたのだ。
どろりとした、黒くて焼けるほど熱い何かがまざった例の声は、その割り箸たちが発していた。
「てえてえてえてえ」
「てえ」
「て」
「てえてえ」


割り箸の、付喪だ。


布団の上に倒れていた、全身が穴だらけの死体は、あの割り箸がやったのだろうと予想がついた。たくさんの割り箸に体中を突き刺されて殺されたのだ。