どごぅっ



気がつけば、遊美の人形はアトリエの壁を殴って破壊していた。
壁に穴が開いた。
大きなコンクリート片がいくつも庭に落ち、闇の中に土煙をあげる。


付喪である遊美の人形は、凄まじい力を持っていた。


熱い感情が急に胸にこみあげてきて、気がつけば、壁を殴っていたのだ。
自分の行動が理解できなかった。なんでこんなことをしたのか。胸にこみあげるこの熱いものは何なのか?

遊美の人形は、アトリエにある物を次々と破壊していった。
棚を片手で粉々に砕いた。
机を蹴りで割った。
キャンパスを下に叩きつけて、床の板を砕いた。
遊美の人形は、部屋中のあらゆる物を、いや、正確には、部屋中の絵の具がこびりついた物を全て破壊しようとした。


なぜだかわからないが、そうしないと、この熱い感情がおさまらないような気がした。


しかし、部屋中を破壊しても、熱い感情はおさまらなかった。むしろどんどん高まってゆくような気がした。埃がたくさん舞う中で、遊美の人形は無表情で拳を握りしめ、震えた。この感情を、どうすればいいのか、わからなかった。


その時、屋敷の外、遠くの方から、かすかに声が聞こえてきた。


それは、物の声だった。


「てえ」
「てえて」
「てえてえてえ」