いきなり轟音がひびいたかと思うと、たくさんの木の破片が飛び散ってきた。あわてて母親は目をつむり、両腕で顔をおおった。木の破片が、全身に強く当たった。どうなっているのかと考える間もなく、また轟音がひびいた。今度は三度だ。音のたびに、木の破片も三度飛び散った。


音がやんだ。


しかしまた破片が飛んでくるのではないかと思い、母親は顔をおおったまま、しばらくの間じっとしていた。混乱していた。箪笥に対する恐怖と、娘の心配と、謎の二人組への不安が入り混じって、足が震えていた。


一分程たっても、何も起きないとわかると、母親はそっと目を開けた。
大量の木の破片が部屋中にちらばっていた。母親の服にも、細かいそれがこびりついている。
そのくすんだ茶色は間違いない。箪笥の破片だ。


「お母さん」
娘の声がした。
我にかえって顔をあげると、壁にもたれて座る娘の姿が目にはいった。
母親は駆け寄った。
「道子、大丈夫なの?」
「うん、手首がまだ痛いけど、思ったよりひどくはないみたい」
「そう、よかった」
母親はため息をついた。
「お母さん、あのひと達、何だったの?」
「あ」
はっとして、部屋の中を見回した。あの二人の姿がない。いつ出ていったのだろうか。入り口のドアが静かにゆれている。
「あの女のひと、何者なの?」
娘はそうつぶやいて黙り込み、そして震えだした。


四度の轟音。


部屋中に散らばった箪笥の破片。


遊美という少女が抱えていた、傷だらけの鉄柱。


何が起きたのかは、なんとなく想像がつく。しかし、それはとても常識では考えられない光景だ。娘はそれを見たのだ。


「付喪狩り」


彼等は、そう名乗っていた。