学校へ行くと、教室がざわついていた。
クラスメイト達が、深刻そうな表情で何かををささやきあっている。
ところが、行人がはいってくると、急に静かになった、全員が沈黙して、こちらに注目する。
「……何?」
とまどいながらつぶやくと、皆、すぐに目をそらして雑談にもどった。
また、田倉が何か嫌がらせをしかけたのだろうか?
そう思って教室を見回したが、田倉の姿はなかった。まだ来ていないのか。それとも今日はサボりだろうか。

ホームルームが始まった。
教壇に立った先生が、少し青ざめた顔をして言った。
「昨日、田倉が交通事故にあったそうだ。重傷で、しばらくの間、入院するらしい」
教室がまた、ざわつきかける。
「静かにしろ。出席をとるぞ」
そのとき、生徒のひとりが声をあげた。
「先生、田倉が通り魔に襲われたって本当ですか?」
ざわめきが、大きくなった。
行人は、目を丸くした。
先生は、舌打ちをもらして頭をかいた。
「おい、おまえ何で知ってるんだ?」
「さっき職員室の前を通ったときに、たまたま聞こえたんですよ。まさかとは思ったんですけど、マジなんですね」
先生は、しょうがないな、といった表情でうなずいた。
「ああ、朝一番に、田倉のご家族の方から連絡があった」ため息をついてから、続ける。「全身に、ひどい切り傷をつけられていたそうだ」
ウソ、というつぶやきがあちらこちらから聞こえた。
行人も信じられなかった。
いくら相手が刃物を持った通り魔だとはいえ、あの凶暴な田倉が重傷を負わされるなんて、想像できなかった。
別の女生徒が聞いた。
「その通り魔は捕まったんですか?」
先生は首を横にふった。
「いや、田倉自身、その、ショックが大きかったせいだろうな。何も話せなくなっていて、そのせいで、警察は犯人を捜すのに苦労しているみたいだ」
ショックで話せなくなるなんて、ますます田倉らしくない。
「でも、先生、よかったじゃないですか」
委員長の男子が口をひらいた。
先生は、眉をひそめた。
「どういうことだ?」
「とぼけないでくださいよ。ほっとしてるんでしょ?田倉が学校に来なくなって」
「そんなことは」
と言いかけて、先生は口ごもった。図星なのだ。
「みんなも、そう思うだろう?」
そう言って委員長は教室を見渡した。
生徒達は、気まずそうな顔をしながらも、うなずく。
「おい、そんなことを言うのはよせ」
先生がたしなめると、委員長は肩をすくめて黙り込んだ。
「でも、誰がやったんだろな?」
別の生徒がつぶやいた。
「よほど、田倉君に恨みを持ってるひとかもね」
そのとき、行人は気がついた。
何人かの生徒がうかがうようにこちらを見たことに。

こいつら、ぼくを疑ってる?