帰宅後、行人は自分の部屋で、あの少年の言葉について考えていた。
変な声がすると言っていたが、何のことだろうか?わけがわからない。
頭がおかしい人間の戯言だとも考えられるが、それにしては、どこか真に迫っているような感じだった。
「なんか、むかつくな」
何にせよ、黒色ノートについて否定的なことを言われたわけだ。
「あいつもやっちまうか」
小さく笑いながら、行人は黒色ノートを取り出し、机の上に広げた。
あの少年を、空想の中でいたぶってやろうと思ったのだ。
ボールペンを握ったとき、妙なことに気がついた。
白紙だったはずの、ノートの新しいページに、書いた覚えのない言葉が書かれているのだ。


『どうしたいの?』


ページの真ん中に、それだけぽつんと、女性のようなきれいな字で書かれていた。
「何だこれ?」
首をかしげながら、しばらくその文字をながめていると、不思議なことが起こった。
文字がまるで虫のようにひとりでに動きだし、ゆっくりと形を変えていったのだ。
行人は、口を半開きにしたまま、それを見つめた。
やがて文字はページの上で、新しい文章に変わった。


『ほら、書いてもいいよ。誰を、どうしたいの?』


うわずった声をあげて、行人はノートをとじた。

だらしなく左右に視線を泳がせながら、いま起きたことをふりかえる。
どうなっているのだ?ノートの文字がひとりでに動くなんて。それにあの文章、まるでノートが行人に語りかけているかのようだった。


ノートが。


ノートが?


「あ」


ふと、思い出した。


いまだにテレビのニュースで騒がれている、あの超常現象を。


「付喪?」