わずかな時間の間に、とんでもないことがたくさん起きた。
陸は、深く呼吸をくりかえし、胸をむりやり落ち着かせてから、少女にむかって、ゆっくりと聞いた。
「君は、誰だ?」
すると、少女はふりかえった。


色の白い少女だった。長い前髪に隠れて見えにくかったが、活発そうな顔つきをしていた。笑うと愛嬌がありそうだ。年齢は、おそらく陸より少し年上といったところか。しかし明るそうな顔つきに反して、その表情はまったくの無表情だった。本当に、何もない表情なのである。まばたきもせず、口も頬すらも微動だにせずに、少女は陸をまっすぐに見つめていた。


異様だと思った。先ほどの動きといい、この少女はどう考えても普通じゃない。
「君は、誰なんだ?」
もう一度、聞いてみた。



すると、少女は無表情のまま答えた。
「わたしの名前は、遊美」



その声を聞いた瞬間、陸の目は大きく見開かれた。