陸はぼうぜんとしながら部屋を見渡した。
また、木のきしむ音がした。
それは、少女の手元から聞こえてきた。


少女は両方の手に、血に染まったたくさんの割り箸を、束にしてにぎりしめていた。割り箸は、白く細い指に強く締めつけられ、一本一本が苦しそうにうごめき、こすれあい、木のきしむ音をあげていた。


この少女が、割り箸をすべて捕らえたというのか。

信じられなかった。

陸はさっき数秒くらいしか、目をつぶっていなかった。
その間に少女は音もなくドアを壊して部屋に入り、一瞬で割り箸を捕まえたということになる。

何なんだこの娘は?

陸は少女に警戒の目を向けた。
そのときだ。
「てててててっ」
「ててっ」
「ててててててっ」
割り箸が悲鳴をあげた。
それにまじって、ぎち、びき、びき、という音がした。
少女が、割り箸を握りつぶそうとしていた。
いくら割り箸とはいえ、片手に二十本以上は、つかんでいるのだ。
それを、まったく力む様子を見せずに、握りつぶしているのである。
「てててててててててててててててててててててててててててっ」
「ててててててててててててててててててててててててててっ」
「ててててててててててててててててててててててててててててててっ」
「てててててててててててててててててててててててててててててててててててててててててててててててててててててててててててててててててててててて・・・て・・・・・・・・・てえ・・・て・・・・・・て・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

割り箸がすべて砕かれた。少女はゆっくりと指を開いた。
木のくずと化したそれらは、畳の上にぱらぱらと舞い落ちた。
割り箸の声がぴたりと止んだ。
ああ、死んだのだと陸にはすぐにわかった。