しばらくその場で考え込み、一本の電話をかける。


五回呼び出し音が鳴るのを聞いて、出ないかなと切ろうとしたら呼び出し音が止まった。


「はい。もしもし。」


外にいるのか、電話の向こう側から風が吹くガサゴソという音とものすごく遠くの方で女の人と子どもの声が聞こえた。


「私だけど……。」


トシに電話をかけるのは初めてで、顔を突き合わせて話をしているとはいえ、どういう声色で話せばいいのかわからず、緊張してしまう。

なんだか初対面のような気持ちになってしまい、よそよそしさが出てしまった。


「……私という名前の知り合いはいませーん。」


「美紅よ!登録ぐらいしてるでしょ!」

それを感じ取ったのかはわからないが、吹き飛ばすかのように一言目からばっさりといつもの皮肉でなんだかほっとした。


それにしても、皮肉を言わないと気が済まないのだろうか。