小さく震える右手。

熱くなる目頭。

格好悪いな、俺・・・。


「寛久」


お袋の声は、幼い日と変わらない柔らかい声。


「ありがとう、寛久。・・・電話・・・ありがとう」


もう戻れないと勝手に決め付けていたのかもしれない。

もっと早くに、俺が言葉にすればよかった。


「今日・・・今日さ・・・。帰っていいか・・・?」


戻りたくないわけじゃなかった。

ただ、なんで俺ばかりがこんなめにあわなきゃなんだって考えたら・・・。

お袋にも、この辛さを味わわせてやりたかった・・・。


「・・・寛久・・・ありがとう・・・。今日ね、お父さんもいるから・・・喜ぶ・・・」


小さく、鼻を啜る音が聞こえた。

もし・・・もしまた崩れてしまったとしても。

今度はきっと、違う生き方が出来る気がする。