「……本当に、いいのか?」
「何回言わせるの?
……あたし、もう黎の傍にしか居たくないんだよ。人間に未練なんて欠片もないよ」
そう言って優しく笑うクレハを、ぎゅっと強く抱きしめた。
トクン、トクンという彼女の心臓の音が心地いい。
温かさに泣きたいくらい安心する。
俺は、自分の指を噛み、そして流れ出たその血を口に含んだ。
そしてそのまま飲み込む事はせずに、彼女に口づける。
「……っ!」
ヴァンパイアの血は、人間にとっては濃すぎるという。
自分では分からないが、血液の味も吐き気を催すほどに強いらしい。
だから、舌を絡めると同時に感じるヴァンパイアの血の味に、彼女は反射的に拒絶を示した。
それでも、身体を離すことを許さずにキスで縛りつけていると、やがて強張っていたクレハの身体から力が抜けたのがわかる。
「……クレハ」
「……」
唇を離し名前を呼ぶと、彼女はゆっくり目を開ける。
……先程までの透き通るブラウンの瞳は、鮮やかな紅の瞳に変わっていた。