「……い、黎っ!!」


幻聴かと、思った。



「え……。クレハ……?」



背中に抱きつくなつかしい温もりに、信じられない思いで彼女の名前を呼ぶ。


身体を反転させて、真正面から向かい合った。


すると、彼女はいつかと同じ、泣きそうな顔で、笑った。



「来ちゃった……!」


「いや、来ちゃった、って……」



そう軽々しく来られるような場所じゃないだろう。



「私が連れて来たのよ」



涼やかな声に視線を部屋の入り口に向けると、苦笑いを浮かべた美紅が立っていた。



「なんで」


「あんたがこのままじゃ死ぬと思ったから。……でも、なんとなく事情はわかったわ。
この子のおかげであんたは人間界で生きられたけど……、この子のせいで、こっちで生きられなくなったのね」


そう言って、美紅は苦笑ではなく小さく笑う。