狭いアパートで、節約の為に貧乏暮らしをしていた頃、父は美術の先生だった。


当時は部屋が、絵の具やオイルで臭かったが、母と父の幸せそうな微笑みと笑い声を聞いていたら、その香りも心地良く、全然気にならなかったものだ。


……いつしか笑いも消え、父は痩せていき、母は暴飲暴食を繰り返し、泣きじゃくる姿を幼い頃、微かだが脳裏に焼きついている。


――そうだ。お父さんはこの時に先生を辞めたんだった。


一戸建てを手に入れ、幸福の笑いが復活した。なにもかも順調で成功だと思われた。だけどそれも……数年で終わりを告げた。