階段を下り、いつものように洗面所へと向かった。お風呂場はダイニングキッチンを通り抜けると、一番奥に設置されている。


欠伸をし両手を上にあげ、キッチンで伸びをしていると、小窓に黒い人影のようなモノが視野に飛び込んだ。


その影は玄関の方へ、足音と共に蠢いた。


――え? 今、人がいなかった? 


間違いない。あれは人の靴音だった。万が一の為に包丁を取り出し、玄関へと向かった。


井上家が火事に遭ったばかりだ。用心に越したことはない。不審火とはいえ、もしかしら放火なのかも知れないんだから。


玄関の扉をそっと小さく開いた。片目だけ見えるような僅かな隙間だった。