「あー、やっぱり?」




ドアの方から聞こえた声。

あたしの大好きな、声。

この重たい雰囲気を飛ばすような明るい声。





「あ…お…?」

「だろーなって思ってたんだわ」

「蒼斗…っ!?」

「俺がキスしない理由、わかるだろ?」

「…っ」




唇を噛む小夜ちゃん。

少し血が滲んでる。





「血が出ちゃうよ、小夜ちゃん!!」

「うっさい!いつまでお人好し気取ってんのよ!」

「さ…よ…ちゃん…?」

「見ててイラつくのよ!」




そう怒鳴り散らす小夜ちゃん。


…あたし…の事?

お人好し…?

そんな事…ない。






「俺、付き合って1週間でキスする男だよ?」



嘲笑うかのように鼻で笑った蒼。

…蒼、やっぱり悪魔。





「なによ、それ!あたしだって…蒼斗を…」

「あー今から好きとか言われても無駄」

「…っ!!」

「つか、お前に好きって言われても俺の心揺れないし」

「…少しは…あたしを見てよっ…」

「無理」





…き、きっぱり!

ズバッと切られた、小夜ちゃん。

蒼はもう少し配慮出来ないのかな?






「小夜ちゃん…」

「沙耶ちゃんが居なかったら、あたしの未来は変わってた!!」

「……えっ……」

「輝いてたわ!!」

「てめぇ沙耶に…!」

「いい加減にしろ、小夜!!」

「あたしの初恋の翔大まで奪って…」






小夜ちゃんがあたしに向ける瞳には憎しみが込められてて。

…でもその奥には悲しみがある。






「小夜ちゃん…」

「あたしが…この学校で1番に狙おうとしてた蒼斗まで奪った!!」

「……」

「あたしは大嫌いなのよ!なんの苦労も知らないで悠々と過ごして!お人好し気取って…」

「お前…っ…」

「あたしね、蒼斗の事好きだったよ?でも蒼斗が優しくなる度、嫌いになってく自分がいた」






小夜ちゃんの心の闇は深い。

真実は…深い闇のそこにある。

そしてあたしは絶対に、

小夜ちゃんに今まで1度も好かれたことはない。