「で、なに勝手に行こうとしてんの?」
「…彼氏が会ってほしくなかったみたいだから」
「…ふぅん。“婚約者”の間違いじゃなくて?」
「…っ知って、たか…」
「あぁ。まぁ嫌だよな、婚約者から…」
「言わないでっ!」
「え?」
「婚約者…なんて言わないで。」
「いや、でもさ…」
「お願い……」
沙耶を苦しめてる存在。
……それはきっと“婚約者”。
隠すなら隠し通せよ、バカ沙耶。
気づいちまったじゃんか。
「…沙耶」
「なぁに…?」
「おいで」
「あ、おと…」
腕を広げる。
涙をポロポロと溢す沙耶。
なぁ、少しだけ休んで行けよ。
「清ちゃんに…悪いよ…」
「清は今お兄さんに会いに行ってる。」
「で、も…」
「清が教えてくれたんだ」
「え…?」
「沙耶が来てること。」
「清ちゃんが…」
「そ。だからゴチャゴチャ言ってないで来い」
「きゃ…!」
腕の中にいる沙耶は少しだけ痩せた気がする。
…飯、ちゃんと食ってんのかよ。
「うぅ〜…」
「沙耶、泣くなよ。」
「あお、と…」
「ん?」
「あたし…」
「何してんの、沙耶」
「っ!…た、くみ…」
声のした方を見れば左目に眼帯を付けた男。
…こいつが、拓海?
「拓海、違うの…」
「後で話聞く。…誰?」
「木崎蒼斗。…あんたが拓海?」
「あぁ、元カレか。」
「…まぁ」
「会うなって言ったはずだけど…」
「っ…」
「睨まなくていいだろ。俺が勝手に来たんだし」
「そう。…で、僕の自己紹介がまだだね」
「あぁ。」
「僕は、白川拓海。沙耶の婚約者」
「…お前が?」
前に聞いてた拓海ってやつと全然印象違うんだけど。
てか沙耶がビクビク怯えてる。
「そう、俺が。…君じゃなくて、俺」
「…ふぅん。」
「なんか言いたそうだけど」
「眼帯、目が腫れてるわけ?」
「…見えないだけ」
「見えない…?」
「あぁ。まぁ色々あったから、ね」
そう言ってニコッと満足気に微笑んだ男。
…沙耶は苦しそうに顔を歪めてるけど。
やっぱりコイツが原因か。