蒼斗に言わないでっていう忠告は守れないに決まってる。
だってあたしは、沙耶が本気でその人を好きじゃないと思ったから。
“蒼には、言わないで。”
なんて知ってほしくないんでしょ?
蒼斗にまだ好きでいてもらいたいんでしょ?
「…婚約…」
「どうするの?蒼斗」
「なにもしねーよ。来年話せばいい」
「それじゃあ…」
「遅くねぇよ。」
「え?」
「沙耶は来年、帰って来んだろ?俺に時間くれてんじゃん」
「時間?」
「成人したらって20歳だろ?何年の時間をくれるんだよ」
「…そういう、こと…」
「そ。…沙耶はきっと奪って欲しいんだろ。」
こんなに遠く離れているのに、こんな手紙でさえ2人の絆を感じる。
――お似合いなのに。
でも2人がそういうならあたしはもう、いいか。
「やーっぱりお似合いね」
「そーか?幼なじみ暦長いだけだろ」
「あたしと聖也は意志の疎通なんてとれないもん」
「聖也相手なら誰でもだろ」
「まぁね。じゃ、あたし戻るわ」
「おー、清呼んできて」
「ラジャー」
ねぇ、沙耶。
蒼斗は清ちゃんとうまくやってるよ。
ヤキモチ妬いた?
でもよかったね、沙耶。
ちゃんと蒼斗に伝わって。
沙耶の思い、涙が伝わって。
“蒼には、言わないで。”
その文字は震えていて、涙が滲んでいたから。