「蒼…」

「……」

「ぎゅーして?」




上目遣いでそんなお願いされたら、断られる訳ねぇ。

断るやつ、バカだろ。




「…沙耶。」

「蒼―…」



安心したのか、俺の背中に腕を回す沙耶。

…沙耶…。




「蒼の中で…あのこは違うから別れないんでしょ?」

「…は?」

「あの日…来なかったもんね」

「沙耶…あれは…!」

「初めてだよ?…蒼があたしじゃない他の子を優先したの」




どこか寂しげで儚げに微笑む沙耶。

…なんだか怖い。

今にも消えてどこか行ってしまうような。

俺の手には届かない…遠くへ。






「…蒼…寂しいんだよ」

「……」

「ごめん…蒼。…あたし頑張るから」

「なにを?」

「蒼が居なくても平気でいれるように…」

「…っ!」




…沙耶も平気じゃなかったんだ。

俺と同じだったんだ。

だけど頑張る…?

俺がいなくても?

…そんなの嫌だ。

なんでだよ…なんでそうなる。

居ればいいじゃねぇか、側に。

平気にならなくたっていいじゃねぇか。





「蒼…彼女を優先するのは当たり前なのに…あたしはバカだったみたい」

「違うだろ、沙耶。」

「なにも違わないよ?」

「…俺の中では沙耶が1番なんだっ…!」

「蒼…くるしっ…」

「ずっとここにいろ。…誰にも抱きしめられるな」





この感情はなんなんだろう…?

なんで…こんなに焦ってるんだ。





「あの日…彼女の所へ行った。…それが蒼の出した答えじゃない」

「…違う」

「蒼?…意地を張らないで」

「張ってねぇよ!!来いっつうから行ったんだよ!」

「…でも行った、でしょ?」

「沙耶ん家に行こうとした!あいつが」

「じゃあ教えてあげる」





そう言って、

沙耶は決定的な言葉を言った。




「名前覚えてるじゃない。」

「……」

「小夜って言ってた…!」

「沙耶あれはな…」

「もういいの。あたしたちは幼なじみだもん。…これが正しい距離だよ」

「沙耶っ!聞けよ!」





…だけど沙耶は聞いてくれなかった。