「沙耶にはこの先好きな奴が出来るかもしんねぇ」

「……うん」

「でも、そんなのは沙耶だけの話だ」

「え?」

「俺にはそんなのは知ったこっちゃねーんだよ」

「は?…え…は?」








沙耶の頭の上に?マークがたくさん浮かんでる。

沙耶にはわかんねぇーか。

沙耶に好きな奴が出来たら…俺どーなんだろうな。

考えたくもねぇーや。

でも、そんなの俺には関係ないってことは言っときたい。







「お前に彼氏が出来たって俺は振り向いてもらえるようにアタックしまくる」

「………」

「だから、お前に彼氏が出来ようと好きな奴が出来ようと、俺には関係ねぇんだよ」

「……っ」







苦しませてるのはわかってる。

沙耶の中で俺が消えないようにズルい事ばっか言ってるし。

卑怯だと思う。

……でも嫌なんだよな。

手遅れになんのが1番。

後悔するのが1番。







「蒼はやっぱり素敵な人だね」

「……さんきゅー」

「清ちゃん絶対助けてね?助けられなかったら承知しないから」

「沙耶が怒ったって怖くねーよ」

「もう…ほら、洗い物!」

「俺に押し付けるなんていい度胸だな」

「急になんなのっ!最後までやる!」







――こういう時間がすきだ。

当たり前のようにあった時間が今は当たり前じゃない。

“当たり前”ってなんなんだろうな?

慣れって怖いよな。

当たり前が崩れれば崩れるほど難しくなって、

溝は深まって…。

修復できなくなってしまう。


そう。

俺たちは甘かった。

“別れ”。

この言葉の現実をわかっていなかった。

わかっていなかったんだ。

甘い俺たちは、

これから起こる事でどんどん離れていくなんて思っていなかった。


愛し合っていれば、思いあっていればいいなんて、


そんなのは綺麗事でしかなくて。

人間そんな風には出来てなくて、ドロドロ醜い。

思い合うだけでいいなんて……思わなくなる。