「ふぅーうまかった!」

「よかったぁ!…魚もあったらよかったね!」

「そうか?…これはこれで好きだけど?」

「…豪勢な朝食にしたかったんだけど…」

「別にうまけりゃいーし。つか沙耶が作ってくれんならなんでもいい」

「…それじゃ、ダメなんだよ?蒼」

「なにが?」

「うーん…色々?」







今日何回か見た。

……その儚げな笑顔。

壊れてしまいそうな、崩れていくような。

触ってしまったら、パッと消えてしまうような笑顔。


その笑顔の意味を俺はわからない。






「…蒼」

「…ん?」

「蒼が洗い物してよ」

「は?俺が?」

「うん。蒼の家事見てみたい」

「変な沙耶だな」

「……最後に、さ」

「なんか言ったかー?」

「水出しすぎって言った」

「沙耶は節約家になりそうだな」

「家計のことを考える主婦になるんですー」

「そうですかー」






どちらも言わなかった。

“俺の奥さん”とも、“蒼のお嫁さん”とも。

……もう最後になんのか?

やっと付き合えて幸せになれて、1ヶ月振りに会えたのに。

もう沙耶の1番じゃなくなって、沙耶の隣は俺じゃなくって他の誰か?

……ふざけんなよ。

沙耶の隣はいつだって俺がいいんだ。

ワガママなんだよ、俺は。

あいにく俺は、他の奴に譲れるような心の広さは持ち合わせてねぇ。







「ねー蒼」

「……ん」

「不機嫌?」

「……別に」

「子供じゃないんだから。」

「……っわかってるっつの」

「蒼は、清ちゃん助けたいんだよね?」

「出来ることなら…」

「うん。あたしね、蒼のやりたい事とかは応援したいの」

「…沙耶……」

「だからね、あたしの存在がきっと邪魔すると思うんだ」






台所からは沙耶の後ろ姿しか見えない。


なぁどんな顔で言ってんの?

なぁどんな気持ちで言ってんの?

――泣いてんの?






「沙耶」

「洗い物終わってから来てよ?」

「……わかった」

「だからね、別れよっか、蒼」

「――……!」







あぁ……こんなにも痛いんだ。

本気な奴にフラれるのって。

今までの比じゃねぇよ、この痛さ。

胸が張り裂けそうに痛くて苦しい。

――涙が出そうなくらい、悔しい。