羅刹が振り向く間もなく。

「!!」

フェンリルの口から吐き出される白銀の吐息。

無論、ただの息ではない。

マイナスに達する温度の冷気。

浴びれば霜柱が立つほどの強烈な吐息だった。

周囲の空気とのあまりの温度差に、オクタゴンが白く煙る。

まるで気化したドライアイスだ。

生身の人間で、こんな低温を浴びせられればたちまち凍傷になる。

無言のまま、白煙に消えた羅刹の姿を探すフェンリル。