車内のワンセグでやっている昼ドラの若手女優の顔が、届きにくくなってきた電波にみにくく歪んだ。
花音の乗った車がトンネルに差し掛かると、映像さえ映らなくなった。
トンネルを抜けたのに、依然としてブルーの背景に"読み込み中↻"の文字をはりつけている画面から、花音はフッと鼻から息を吐いて目をそらした。
暇を持て余した彼女はふと左を向き、後ろに流れていく景色に目をやった。
いつの間にか、緑に囲まれた田舎を走っていた。
なんか落ち着く…と花音は思った。
これぞ田舎って感じ。
緑色って目にいい色だったな。見ていれば、目が良くなるのだろうか。
そんなことを漠然と考えていると、ゆったりとした調の音楽が流れ出した。
なんか聞いたことある。
運転している母がつけたのだ。
景色とピッタリな曲だな。あ、最近学校で習ったフヘンテキにユウゴウしているってこういうことかな。人の文化と自然が、美しく混じり合うことって〇〇先生が言ってたから。

「かのん、もうすぐ着くから、おばあちゃんに電話かけてちょうだい。」
「おっけぃ。おばあちゃんの電話番号まだ登録してないから、けーたい貸して。」
「ん。かけたら10コールは待つのよ。」
「え、どういうこと?」
「おばあちゃんは足が悪いから電話までつくのに少し時間がかかるのよ。」
「あぁ。りょうかーい。」
祖母は5年前に祖父が亡くなってから、ひとりで暮らしている。
畑を趣味にしており、まだ一人で暮らしていける祖母は、68歳という歳にしてはとても元気である。
しかし足腰が弱ってきていることは花音の目にも明らかだった。
両親は一緒に住んだほうがいいのでは、と思ってはいる。
が、仕事が忙しく、花音のことでさえ十分に構ってやれないのに、やっていけるだろうか、と不安な気持ちもあるのだ。