キッと睨む目前の男はさらに眼光を鋭くして問いただしてきた。
「貴様はどこから来た?こんな山奥で何をしている?そもそもその格好はなんだ、馬鹿にしているのか?にしても……「ちょ、ちょおストップ!答えるからゆっくりでお願い!」
まさにマシンガンのような質問攻めに4番目も慌てて止める。
すると意外に、眼光を抑え木棒を離し凛とした立ち振る舞いでこちらを見据えてくる少年。
え、けっこう従順なタイプ?
「俺は【フェイ・ロウ】。今日はここで自分を鍛え上げていただけのこと。すれば貴様が急に現れて………
ああそうだ、貴様は誰なんだ?」
「んー、僕は4番目の【失望】だよ。7番目から逃げてたらたまたまここに着いちゃっただあーけ。
別に君を襲おうなんていう外部の阿呆じゃないから」
「4番目…?【失望】…?
っ、貴様、ふざけているのかッ!」
「別に、ふざけてないよ。ああでも、君ってばすぐ怒るタイプ?だったら僕は、【失望】するな」
上目遣いで、されど殺気を含むその睨みにフェイ・ロウは思わず刀、『青竜刀』を抜刀した。
それを見てクスクス笑う4番目。やはりフェイ・ロウはそれにすら苛立つ。いや、それだからこそ、か。
「ねーえ、女子供は斬らないんじゃなあーいのおー?僕は立派な女で子供。君ってばキレると矛盾するタイプー?」
「っ、黙れ馬鹿者!いいからちゃんと答えろ!貴様は何者なんっ……」
「だから、【失望】させないでよ」
トンッと地面を蹴り、向けられていた刃の先に飛びのる4番目。
軽業師のような軽やかさに、思わずフェイ・ロウも目を丸くする。
「ねえ、フェイ。君はちゃんと、"僕"を見てくれる?」
「は……?」
「見てくれないなら、せめて僕に同情してよ。
あわよくば、偽の愛を」
そう言って体重をかけ始める4番目に、瞬時に危険を察したフェイ・ロウは青竜刀を振って4番目を退かせた。
「おっと」と言って再び地面に足をつける4番目の表情に、焦りは見られない。
「同情だと?初めて会ったやつに、それすら無礼な態度などをとる輩に同情する余地なし!
ましてや偽りの愛だと…?そう軽々しく愛を語れる年でもないだろうっ、なにを貴様は訴える?!」
「訴える?…あははっ!別に僕はわかってもらいたくて声を発してるんじゃない。
君如きに、僕を理解できるなんて思わないでよ!僕は僕にしか分からないし自惚れる奴らに伝える言葉もない!
そうやって思い込みで人を見ないでよ。だから僕は人間が嫌いなんだ。だから、僕は君たちに【失望】するんだ」
虚ろな目でゆらりと近づく4番目に、とうとう刀を構えるフェイ・ロウ。
「貴様、人外か……。成る程、躊躇する必要なし。存分に斬らせてもらう!」
「いいよ、いいよ!そうやって君は僕を傷つければいい!そしたらきっと、誰かが『可哀想』って言ってくれる!
僕に偽りの愛を少しでもくれる!」
「馬鹿者!そうやって"自分の哀れで他人を惹くな!自分の魅力で他人を惹け!"」
「!………僕に魅力なんてない。
誰にも自分だけの『特別』があるなんて思わないでよ。僕は、僕なりのスタイルがあるんだから」
地面を蹴り飛び上がる4番目。青竜刀を構え相手を睨むフェイ・ロウ。
「フェイ、君は勘違いしてる。僕は……………!」
「なにをだ、何を勘違いしていると言う。負け犬の遠吠えにしては早すぎるぞ!」
そうしてフェイが刀の先で4番目を突こうと上へ向けたのだが。
あれ、霧が出てきたような………
そうして霧が晴れたとき、そこには4番目の姿はなかった。
そうして最後に残された言葉は酷く悲しいもので。
『フェイ、僕は同情や偽りの愛が欲しくてたまらない訳じゃない。人間の自然な訴えが聞きたいんだよ。
【失望】しないような綺麗な戯言を、ね』
*
「いててて……まったく、飛ばしすぎなんだよ。もっと優しく飛ばしてよね」
誰に向かって放った言葉か。4番目は、ゆらりと去ってゆく霧をキッと睨む。
4番目の行き着いた先にはどこかの路地裏。はて誰もいない、どこへ行こうか。
とりあえず、と。立ち上がりゴスロリについた砂埃をぱんぱん叩いて落とす4番目。
「さて、どこへ向かおう……か、な………………………」
腰に手をあてた状態である一点を見つめたまま目を逸らさない4番目。
一体なにがいるのかと。
「にゃんにゃにゃーんっ、やっぱこの姿だとみいーんなお菓子くれて嬉しいにゃーんっ。…………およ?」
ばっちり目があった瞬間、思いきり目を逸らす4番目。その反応わっかりやすう。
よしこのまま何も見なかったことにしよう。うん、そうしよう。
そうと決まれば回れ右ー…と、もはや現実逃避しだす4番目だったが、なんと相手の悪いことか。
「にゃにゃーんっ、どこ行くんだよぉ~?俺と一緒に遊ぼうって、なあなあなあ~」
うぜぇ……
反射的にそう口に出してしまいそうになるも、4番目は目を逸らしたまま相手をする。
「あのさあ……君ってどうして "猫" なのに話せるの?僕とおんなじ人外?」
そう、実はこのうざ………げふんごふんっ。この妙にしつこく話しかけてくるキャツの姿は、どこからどう見ても『黒猫』なのだ。
なぜ話せるのだろうか?
しかし黒猫は笑ったかと思うと、「俺は普通の黒猫じゃないんだよーんっ」と言った。次の瞬間。
とんっ……と地を蹴る音がしたかと思えば、4番目のすぐ目の前に男の人が現れた。
「俺はー魔法使いなんだよねーんっ。ねこねこな俺もイケるっしょー?」
「なっ……」
ぽかんと口を開け目を丸くする4番目。
こいつがさっきの黒猫?
っていうか、さっきまで僕の後ろにいたよね?なんで空中で宙返りできんの?
疑問符のうずまく脳内で目もぐるぐるになりながらも、4番目は眉間を押さえ目の前の男を見据える。
よくよく見れば、黒髪碧眼の美形なのだが………
「ええーなになにい?俺のことそーんな見つめちゃってまあまあまあっ!てーれーるうーっ」
「………。(イラッ)」
なんとも残念な性格の持ち主のようだ。
「あ、そうそー。俺の事はクロネコさんって呼んでねんっ♪」
ウィンクするクロネコさん。
(っていうか、『さん』付けすらしたくないんだけど by.4番目)
それに4番目は少し……いやかなり引いている。
「君のそのテンションって、どうにか出来ないわけ?」
「んー、むりむりいー。だあってこれが俺の性格だからねえ。あ、でも俺こー見えて強いから!俺の蹴りとかちょーパないから!」
「いや聞いてないし」
なんでこんな人と関わってしまったんだと思うより先に、4番目は深く溜め息をついた。
「ああ……これだから嫌いなんだよ、他人と関わることが。こうやって煩く騒ぐ奴らがいるから。
だから僕は【失望】する」
虚ろな目で空を見上げる4番目。
次にクロネコを見たときには、もうどうでもいいと言うかのようにジトリとした視線となった。
「僕は4番目の【失望】。君みたいな奴と出逢った運命に、それすら運命を定めてしまう神様に、僕は【失望】したよ」
「4番目?【失望】?なに言ってんのかわかんにゃーいっ。だけどだけどだけどっ、俺は【失望】するくらいなら、自分で全てを変えていけばいいと思うけどねーんっ」
「っ、だまれッ!」
地を蹴り大振りに足を回す4番目。
その爪先が ゴキイッ! と音をたてクロネコの頬に直撃した。
「っ………」
「君に何がわかるの?僕のこと、なにも知らないくせにっ、ましてやついさっき会ったばかりでしょ?
いとも簡単に、全てを変えるなんて阿呆染みたこと言わないでよっ!」
悲痛に叫ぶ4番目。肉体的にクロネコが傷ついているとすれば、4番目は精神的に傷をつけられたのだろう。
「ほっといてよ!君みたいにお気楽になれたら、さぞ楽しいだろうねえっ!
でもっ、それでも僕は変われない…っ。僕は【失望】、ただ嘆くことしか出来ないって分かってる!
だからっ……」
「それで、諦めちゃうんだ。へえー、だったら俺にゃあ分っかんないかにゃあー」
間延びた声に、ゆらりと態勢を立て直すクロネコ。