失望巡りて世界は廻る



5番目のように求めるわけじゃない。


ただ僕は失望したんだよ。


この偽りだらけの愛のない世界にさ。



「君もそうでしょ?7番目」


「私ですか?ええっと、……確かに0番目がいない世界は不要。

ですが、それでは私も不要となってしまう。求めるならば、私は主人が欲しいですね」


「……そっか、7番目は【忠義】だもんね。でも僕は【失望】。

君はそうやって主人に尽くそうとするけれど、いつ裏切られるかわかったもんじゃない。

信じない方が身のためだよ」


「おや、随分と優しい言葉を吐くのですね」


「優しい?僕が?

ジョーダンやめてよ!僕はいつだって自分可愛さのため、こんなクズだらけの世界で信じられるのは自分だけだよ?」



ゴスロリ着たボクっ子の少女。

それに対するは騎士の甲冑を着た長身の大男。


どこかも分からない霧の世界にて、二人は対峙していた。



「もうこんな世界イラナイ……。ねえ、どうして人間は必死に生きようとするのさ?

くだらない。必死になるだけ無駄なのに。哀れだよ、愚かだよ、酷く滑稽だよ」


「……確かに、阿呆にも程がある。けれどね、4番目。だからこそ、面白いんじゃあないですか。

そんな人間が、私は好きですよ」


「君も相変わらずだね、7番目。いっそのこと、君にも失望してみようか」


「ふふっ、出来ないくせによく言います。まあ例えあなたが私に失望しようと、私はあなたを見捨てませんよ。

愛に飢えた蝙蝠(こうもり)すら、私には愛おしいのですから」


「………変な奴」



そっぽを向く4番目の耳は少し赤い。

それを見て7番目もクスクス笑うのだから、尚更4番目は拗ねてしまった。


「愛に見捨てられ、そうしてあなたは生まれた。『4番目の【失望】』として。

だからあなたはいつも9番目にべったりなんですね」


「……そう、なのかな。でも、9番目はあったかいよ。0番目が消えてから笑わなくなったけど、それでも優しく抱きしめてくれるんだ」


「嫉妬しますねえ……」


「やめてよ、6番目の【嫉妬】みたいなこと言わないで……。

ほんとに失望しちゃうんだから」


「おやおや、それは困りましたねえ。0番目のいない今、私の主人はあなたなんですから。

主人に嫌われることは、死ぬことよりもつらい」



そう言って悲しげな憂いある表情を見せる7番目。

それでも4番目はそっぽを向いたままだ。


ふと、ポツリと雫が落ちてきた。



「おや、雨のようです。どこかで雨宿りを………おや?」



一瞬空へ目を向けた7番目。

その隙に逃げたんだろう、4番目はいなくなっていた。



ああ、どんどん霧も濃くなってゆく……







誰もいないであろう山奥。

近くに水の流れる音がしたから、そこで少し休もう。

そう思って茂みを掻き分けたのに……



「む?なんだ貴様は」

「………。」



4番目の【失望】は、その名に相応しく怪訝な顔をして目前の男を見つめた。


白く袖の長いチャイナ服、黒くゆったりとしたズボン。凛々しい少年だが、容姿からして中国人であろう。

手には刀。後程知ったのだが、どうやら『青竜刀』というらしい。

物珍しげに4番目が見つめていると、相手の少年も4番目をマジマジと見つめてきた。


原因はきっと、ゴスロリというこの場にミスマッチな服装。


「む……な、なんだその格好はっ?貴様まさか外部の者かッ!」


「……いや、君こそ誰だよ。僕より君の方が怪しいと思うけど?子供がこんなところでそんな物騒なモノ振り回して……」


「いやどう見ても貴様の方が年下だろう?! いいから答えろ!貴様は何者だ!」



どうやら話を聞かないらしい17ほどの少年は、近くに転がっていた木棒の先を4番目に向ける。



「……ねえ、なんでそっちの刀じゃなくて、そんな脆い木棒を向けるの?僕を威嚇するなら刀の方が有利でしょう?」


「馬鹿者! 女子供に向けるためのモノではない上に、なりふり構わず己を護るために鍛えたわけではないっ!

貴様に刃(やいば)を向けられるわけが無いだろう?!」


「そこは意外と律儀なのね……」



誰彼構わず暴君なりの刃を向けられると思っていた4番目は拍子抜けした。

そんなにも危ない人じゃないみたい、とほっと溜め息をついたまさにその時。

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