「あ、そうだ。この本も一緒に返しておいてもらえますか?」
彼から渡された本のバーコードをスキャンし、期日内であることを確認する。
「はい、確かに」
「ありがとうございます」
私は笑みを浮かべ、黙礼して立ち去る彼の姿を見送った。
そのとき、微かに香った気がした。
もう季節は終ったはずの、金木犀の花の香り。
あの花特有の濃い甘い香りが、先程彼から受け取った本から漂ってくる様な気がして、私は本を逆さまにしてそっと揺らしてみた。
何かがはらはらと舞落ちてきて、私の膝を覆う紺色のブランケットに星屑みたいに散らばった。
まるで甘い金平糖の様な素朴で小さな花々。それはもう、とっくに咲き終わったはずの金木犀の花だった。
そして私は、一片のカードに気付く。
叶うことはないと諦めていた恋心に、暖かな火が灯った。