「すみません、予約していた本が届いていると連絡を頂いたのですが」


 丁寧な問いかけは、あの彼のものだった。その声を耳にしただけで、瞬時に頬が熱を持つ。


 しかし、カウンターに座る私の体越しに奥の本棚を探る彼の姿に、一度感じた筈の熱は直ぐに冷めた。

 私は、身の程知らずな自分を恥じた。


「お待たせしました」

 後ろの本棚から、彼が予約を入れていた本を抜き取り、彼に本を手渡した。視線が合うことはない。


 やはり、私と彼は永遠に交わらない。

 私は、湧き上がる落胆を、ため息と共に吐き出した。