「今日は、特別寒いわね」
白い息を吐きながら、藤咲さんは身を竦めて両手を擦り合わせた。
その肩にひとつ、オレンジ色の小さな花が落ちている。
「藤咲さん、これ……」
私は、まだ微かに甘く香るその花を指先で摘まみ、藤咲さんに見せた。
「あら、金木犀。学内の花もほとんど散ってしまったわね。もう香りが楽しめないのは寂しいわ」
「そうですね」
私は藤咲さんに頷くと、結露で曇った嵌め込み窓を見上げた。
昨日までは僅かに残っていた花も散り、金木犀の葉の深いグリーンが朝日を受けて輝いている。
雀が一羽、ふわりと視界を横切った。
――秋は終わり、冬が来る。