「……ほんじゃ、何?あんたら、うちのこと恨んどるんか?」

屋上にて。

入学式も終わり、人気の少なくなった校内からは、室内部の掛け声が微かに聞こえてくる。

「別に恨んでねーよ。ただ俺は、あの時死ぬほど息苦しかっただけだ!」

秀人が苦い顔で胡座をかいた足に肘をついた。

千尋も壁に凭れながら、憮然とした表情をしている。

「んなこと言ったってよぉ、しゃーないやん。うち知らんし、そんな事情あったとか」

千尋の表情に、憮然の他に僅かに怒りが見えるのは当たり前だ。

「ショージキ知りとうなかったけどな。んなアホらしい事情なんざ」

「………」

「千尋、やめてあげて!竜が傷付きやすいの知ってるだろ?!」

慌てて俺を庇ってくれる秀人。

「……いいよ秀人……自分が情けないことは昔っから分かってるから」

言いながらも、俺の落ち込みようは半端じゃなかった。

「まさか、竜君と舞華にそんな亀裂があったとはねぇ……」

亀裂。

確かに亀裂なんだろう。

深い深い亀裂だ。

「“かわいそう” なぁ……うちから見たらそんなことしか言えんかった幼き竜君がかわいそうやわ」

「言うなよ……ガキだったんだよ俺も……」

亀裂の原因は、俺が口走った“かわいそう" の
一言だ。