身体に回す腕に力がこもり、2人の身体は更に密着する。
規則正しく鳴る心臓の音を間近で聞く彼女は彼の胸に顔を埋めたまま、何も言わずに瞳を閉じた。
何があったのかはわからない。
何を悩んでいるのかも、彼の身に何が起きたのかも、何もわからない。
只わかるのは、このまま彼に身を預ける事が、今の自分にできる事なのだと言う事。
それだけは、現況についていけていない彼女にも理解できた。
だから彼女は抵抗もせず、彼の胸の中に収まり続ける。
何も言わず、何も聞かず、何も問わず。
只静かに、彼女は彼に身を預けた。
ふっと吹いた夜風にサラリと靡く銀色の長い髪。
フワリと立ち上るシャンプーの匂いが鼻をくすぐる。
夜空には、まるで2人の姿を影から覗き見ているような、そんな錯覚を覚えてしまう程の鋭い三日月が真上に昇っていた。