「…怖かったんだ…彼等に従わなければ、居場所を失いそうで……逆らえば、またあの闇の中に捕らわれてしまいそうで……怖かった…… だから私は彼の言う通りにこの力を得て、彼の指示通りお前を襲った……お前を殺せば、きっと彼は認めてくれると……私を人として見てくれると、そう思ったから……でも…でも違った……私は只、利用されていただけ……彼等にとって私は道具でしかなかった……」


ツッと目尻から零れる涙。

その雫は乾いた地面に染み込んで行く。




 「私は一生奴隷のまま……普通の人間としては生きれない…誰かに寄生してしか、生きていけないんだ……」


 「…否、それは違うんじゃないか?」


グッと拳を握った彼女は彼の言葉に閉じていた瞳を開き彼を見上げた。




 「お前は1人の人間だ。他人となんら変わりない、普通の、1人の人間。俺にはそう見えるけど」


頭をかきながら言う彼は彼女から離れ立ち上がる。

解放された彼女だが起き上がる事はなく、寝転んだまま呆然と彼を見つめていた。




 「お前は人に寄生してる訳じゃない。お前は只、1人で居るのが嫌いなだけ。誰かの傍に居たいと思う気持ちが、人一倍強いだけだ」


ニッと八重歯を見せる無邪気な笑顔。


未だ身動きを取らない彼女はその笑顔にみとれていた。




 「お前は1人でも生きていけるさ。もう何も恐れる事はない。何も怖がる事はない。きっと1人で歩いて行ける。でも不安なら、手を貸すぜ?お前がもう大丈夫だって言うまで、傍に居てやる」


差し伸べられた掌。
向けられ笑顔。

彼女はその2つを交互に見つめた後、恐る恐るその掌に手を伸ばす。


しかし、指先が触れる手前で何かに気づき、咄嗟にその手を引っ込めた。


差し伸べた手を取らない彼女に疑問を抱き首を傾げていると、後頭部に走る激痛。




 「いっ…つ……!」


重い鈍器で殴られたようなその痛み。


彼は苦痛に顔を歪め膝を折るとそのまま地面に倒れて行った。