「人の男盗ってんじゃねえよ、この泥棒猫!」


大きな音と共に頬に走る強烈な痛み。

私を殴った女は目に涙を浮かべながら、背を向けて夜の街に消えていった。


「…痛い」


殴られた頬を手で押さえると、何となく腫れている気がする。


まあ、放っておけば平気かな。

それに…慣れてるし。


眠くなってきたから、家に帰ろうと歩き出す。

人ごみに紛れて、自分がすごく小さな存在な気がした。


やっぱり夜の街は居心地が良い。

私が私でいなくてすむから。