「会えないんだ」

と、穴瀬が言う。その顔は特に残念そうでもない。セットのサラダをつついていたフォークを止めて石岡は穴瀬の顔を探るように見ていた。穴瀬はトマトをプツリと差してそれを口に運びながら石岡を見た。

「年末年始だけじゃなくて、2月、3月は休みの日も暫らく会えないと思うし、その後は本当に滅多に会えなくなる。・・・・会えなくなる。」

会えなくなる、という所を2回繰り返して言ったあと、穴瀬は黙々とサラダをつついた。

「どういう意味?会いたくない、っていう意味?」

「そうじゃないんだけど・・・。異動があって・・・」

「イドウ?」

「うん。今度娯楽性のあるショールームを創ることになって、そっちに配属される事になって・・・引越しとか、色々・・・」

「異動・・・。どこ・・・?」

「うん、と・・・。・・・ド」

「え?」

「インド」

「い・・・・インド????」

カチャンと音を立ててフォークがサラダボールに落ちた。石岡は穴瀬を見つめ続けている。何かの冗談なのだろうかと思うのに、穴瀬は至極真面目な顔をしてサラダを突き続けていた。

「なんなの、それ・・・?」

石岡は怒りをぶつける場所に迷いながら疑問を口にした。

「何・・・って・・・。」

レタスの最後の二葉を突いて口にすると、フォークをサラダボールに置きながら穴瀬は石岡を向いた。

「真面目な話しなの?」

「冗談だと思ったの?」

「思ったんじゃないよ、思ってるの。」

「真面目な話しだよ。」

「どうして?なんで穴瀬さんが行くの?」

「そんなの知らないよ。会社に言われたから行くんだよ。サラリーマンなんだからさ。」

「穴瀬さんじゃなくたっていいじゃない?」

「だから知らないって!俺に訊かないでよ!!」

穴瀬はサラダボールをテーブルの端によけながら水のグラスをぐいっと傾けた。石岡が怒った顔で穴瀬を睨みつけているのを見て見ない振りをしている。声を荒げた事も忘れたように店内に掛かった絵を見つめていた。